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「個人事業と法人、どちらがいい?」 法人化のメリットとデメリットを起業家3名へ公開インタビュー

起業イベントレポート

品川区立西大井創業支援センター(PORT2401)は6月19日、起業を目指す人を対象に「法人設立のベストタイミングっていつ? 公開インタビュー」を開催しました。

ゲストインタビュアーは雑誌『起業時代』(freee出版)の磯貝美紀統括編集長。同センター利用会員で、ライフスタイルブランドを運営するプノントイ代表の吉成絵里香さん、同センターインキュベーションマネージャーの米澤智子、同センター長の野田賀一の3名が登壇し、「個人事業と法人の違いは?」「法人化すると、どんなメリットがあるの?」などをテーマに、起業した実体験を赤裸々に語りました。 当日の様子をダイジェストでお届けいたします。

〈登壇者プロフィール〉

〇インタビュアー
磯貝美紀 氏/freee株式会社 「起業時代」統括編集長

大学卒業後、NTT東日本やベネッセコーポレーションで、BtoB、BtoCマーケティング、サービス開発、プロダクト開発などを経験。2021年にフリー株式会社に転職すると、起業の準備が始められる「起業時代」アプリの企画開発やブランド開発を担当。2022年より雑誌『起業時代』を含め 、統括編集長を務めている。

〇スピーカー
吉成絵里香氏/プノントイ

北海道大学農学部を卒業後、JICA海外協力隊を経て、三菱UFJリサーチ&コンサルティングで勤務。2021年に、森林・里山資源の価値や魅力を高め、一般の人に広めるブランド「プノントイ」を起業。精油などのものづくりのほか、里山を活用するイベントの企画運営などを行う。第13回「ウーマンズビジネスグランプリ2024 in品川」にて、「立正大学経営学部賞・よい仕事おこし賞」を受賞。2024年6月に法人化した。

米澤智子/西大井創業支援センター インキュベーションマネージャー

中小企業診断士。「地域産業を支えるローカルブランド企業を、広報PRで100年先まで残す」をミッションにワンパーパス株式会社を設立。従業員100人未満の製造業・小売業や学校法人等で広報PRの支援実績があり、直近1年間でのメディア掲載実績は60件以上。特にPRクライアントの信頼性を高める地元新聞記者との濃密なリレーションを得意とする。西大井創業支援センターでは、起業初期の事業づくり・SNSマーケティング・広報PR戦略/プレスリリース作成を中心にアドバイスを実施。

野田賀一/西大井創業支援センター センター長兼コミュニティマネージャー

高校卒業後、航空自衛隊を経て、2009年に不動産業界へ転身。都内で貸し会議室事業やコワーキングスペース事業、スタートアップ・ベンチャー企業に特化したオフィス構築コンサルタント、オフィスビルリノベーション事業の企画開発などに従事。2021年から西大井創業支援施設のセンター長兼チーフコミュニティマネージャーとして起業家支援に携わりながら、埼玉県飯能市のまちづくり会社にも参画し、まちづくりリノベーションやマルシェなどのプロジェクトを手がけている。

「事業内容が変わった」「一人で仕事を抱えきれなくなった」 ・・・登壇者が語る法人化のきっかけ

左から、磯貝、吉成、米澤、野田

磯貝:本日は、私が皆さんにインタビューする形式で進行していきます。まずは、それぞれが法人化した経緯をお聞かせください。

吉成:2024年6月に法人化しました。このタイミングだったのは、法人向けの環境経営支援を新たに立ち上げたことと、金融機関と連携する際に法人であることの必要性を痛感したからです。

3年前に個人事業主として創業し、当時は、人生をかけてやり遂げたいミッションが見つかったという熱意だけで動いていました。創業当初はDtoCのものづくりから始めたのですが、スモールステップで事業成長の方向性を模索しながら、創業融資やチーム作りに挑戦し、法人化に至りました。

米澤:私が法人化したのは、西大井創業支援センターで、法人化の相談に関わったことがきっかけです。それまで、私が個人事業主だったこともあり、相談にうまく答えられないことがありました。だから、法人化を経験してみようと。「特定創業支援等事業(※)」の期限がギリギリだったことも後押しになりました。
 ※…会社設立時の登記に関する登録免許税が半額になるメリットなどがある

野田:私も起業理由の一つは米澤さんと同じです。西大井創業支援センターのセンター長なのに、法人化を経験していないから、まずは体験してみようと思いました。 あとは、センター長とは別に、個人事業主として地域のまちづくりに参加しているのですが、一人で案件を抱えきれなくなってきたんです。それもきっかけで、組織化しようと思いました。
自分以外にもまちづくりで地域を盛り上げられる人を増やしたほうが、世の中のためになると思って法人化したんです。

磯貝:法人化を検討されるケースとして、売上が大きくなり、節税効果を考えて…という話もよく聞きますが、皆さんは違う理由だったのですね。

法人化でビジネスチャンスが広がった

磯貝:法人化して良かったことは何ですか?

吉成:法人でないとチャレンジできない、ビジネスコンテストや展示会に参加できるようになったことですね。ブランドの応援者を増やす意味でも、ビジネスチャンスが広がった気がします。

米澤:想定外だったのですが、取引先が変わりました。それまでは個人事業主や一人会社の社長を相手にしていたのが、法人化してからは40名ほどの従業員がいる製造業など、顧客の組織規模が大きくなり、取引金額も数万円だったのが数十万円に変わりました。

野田:経営者の悩みがリアルにわかるようになったので、イベントの企画が立てやすくなったことですね。「経営者は孤独だ」とか、「経営判断のたびに胃が痛む」とか。本業のセンター長としての役割に生かせています。
あとは、「何に投資すべきか」という経営感覚が備わってきました。扱う金額が増えただけでなく、「投資したお金を何年後に回収できるか」を考えるように変わったんです。

磯貝:「お金をどう動かすか」という感覚が身に付いたんですね。

野田:そうです。個人事業主の頃の売上は、自分の財布に入る感覚なんですよ。だから、家族旅行なんかに使っていましたけど、法人化すると役員報酬が決まるから、それ以外の会社のお金をどう使うかを考えるようになるんです。具体的には、人を育てたり、商品をパッケージ化したりするのに使っています。

運営費用がかさむのが法人化のデメリット

磯貝:法人化して感じたデメリットはありますか?

野田:手続きが煩雑すぎることですね。先日、人事労務について社会保険労務士の方と相談したのですが、ハローワークと労働局と年金事務所のそれぞれに書類が必要でうんざりしました。
会社に勤めていた頃は、バックオフィス業務を経理部や総務部にお任せしていたんですよね。あらためて、ありがたみを感じました。代表取締役になると、マーケティングも新規サービス開発も、全部自分で考えなくてはならないので大変です。

磯貝:会社が大きくなると分業できますが、それまでは一人で何役もこなす必要がありますよね。

米澤:私の場合は、会社を運営するためのインフラ系に費用がかかったことですね。コワーキングスペースを法人の本社登記に利用したので、コワーキングスペースの月額利用料のほか、ポストや法人登記利用料も必要で、合計すると月額約2万円かかっています。
それ以外にも、法人年会費のクレジットカードや、会計ソフトなどの法人プラン料、税理士や司法書士への依頼料も必要でした。すべて経費にはなるとはいえ、思ったよりもかかりましたね。

吉成:私は登記費用や固定費のほかに、個人事業主として行っていた事業を法人に引き継ぐ必要があったことですね。商品の在庫を個人から法人に売る手続きが必要でしたし、日本政策金融公庫から融資を受けていたので、それも法人に変更しました。想定していたことではありましたが、意外に作業が多かった印象です。

磯貝:個人で店舗ビジネスをしている場合も、法人化すると手続きや追加費用が必要なケースがありますよね。どのタイミングで法人化するかはよく考えたほうがいいのかもしれません。

資金調達を受けるには情報収集が要に

磯貝:資金調達には、どういうところを利用しましたか?

野田:当初は自治体の特定創業支援等事業を活用するために問い合わせしたのですが、特殊なケースで使えないと言われたんですね。だから、運転資金と設備資金の確保のために、まずは地元の信金に相談に行きました。そうしたら、日本政策金融公庫との協調融資ということになりそれで進めました。

銀行とのやり取りでは、収支計画でどのようにお金を回収するかが重視されます。会社員時代に収支計画や資金繰り表を作った経験はあったのですが、人件費も含めたキャッシュフローを作るのは、新しい学びにつながりました。

吉成:私は、商品開発やブランディングをしていくなかで売上見込みが立ったので、日本政策金融公庫の創業融資を受けました。ほかには、国の小規模事業者持続化補助金や、品川区が支援する事業PR・販売促進支援助成事業、東京都の創業助成金を受けました。

磯貝:助成内容は、区によってもずいぶんと異なりますよね。開業場所が決まったら、とことん調べることが大事です。その辺りは、情報戦かもしれませんね。

法人化のタイミングを早まってしまったケースとは

磯貝:野田さんや米澤さんは、いろんな方から相談を受ける立場ですが、法人化のタイミングを早めてしまったケースを見たことはありますか?

野田:あります。法人と契約したいから法人化したけれど、実は個人事業主のままでも大丈夫だったとか。
あとは法人化する前に、開発したプロダクトを身近な人に使ってもらってテストすることもあると思いますが、皆さん知り合いの開発したものだから利用してくれるんですよね。プロダクトマーケットフィットをもじって、ユニコーンファームの田所さんが「プロダクト忖度フィット」と言っていたのですが、周囲の評判が良かったものでも、実際に市場へ出すと需要がないというパターンも実は多いんです。起業家は、勢いも大切ですが、ブレーキをかけるべきかを見極めることも必要ですね。

米澤:これは私がやらかした経験なのですが、法人化してから商号変更しているんです。勢いで法人化したので、事業内容やミッションが不安定で、仕事を続けるうちに商号と事業内容に乖離があることに気付いたんです。
それに、電話で当時の商号を言うと「え?もう一度言っていただけますか?」と、2~3回は繰り返さないと相手に伝わらなかったので、よりわかりやすい商号に変更しました……。商号変更には、登記費用と司法書士費用が数万円必要になりました。最初にじっくり練るべきだったと反省しています。

磯貝:たしかに、法人名に事業内容を限定する言葉が入っていると、事業領域を広げたい際に変更が必要になるケースがありますね。法人化する前には、自分がどんな事業をしていきたいかを、ある程度言語化することが大切なのかもしれません。

野田:法人化前の準備でいうと、資産を作っておいたほうがいいと思います。お金を貯めれば商品やサービスの開発資金にあてられます。あとは、営業に行かなくても案件が入ってくるような人との繋がりを作っておくことも大切です。そうした資産を個人のうちから2~3年かけて作っておくと、法人化してから生きてきますよ。

法人化のタイミングは人それぞれ

講座では、「個人事業と法人の違い」に関するレクチャーや質疑応答の時間もありました。質疑応答では「法人化したことで、経費処理できるようになったことは?」「従業員やパートを雇った時のビジョンの共有法は?」などがあがりました。

登壇者は、個人事業主から少しずつステップアップして法人化した方や、職業柄必要に駆られて法人化した方たちでしたが、皆さんが声をそろえて言うのは、「法人化したことで、個人事業主の頃には想定してなかった素晴らしい取引先と巡り合えた」ということです。

法人化のタイミングは人それぞれ。自分のビジネスに合った選択ができるよう、まずは情報収集からはじめ、わからないことは無料相談会などをうまく使いながら進めていきましょう。