PORT2401

2401起業media

イベントレポート:Web3入門編 「信頼」できるインターネットを実現する革新的技術

起業イベントレポート

 大阪・関西万博での導入もきっかけに、注目を浴びている「Web3」。けれど、その実態をよく知らない方も多いのではないでしょうか。

 品川区立西大井創業支援センター(PORT2401)は2024年3月4日、Web3を活用したサービスを展開する直江憲一さんを招き、Web3の登場で私たちの生活がどう変わるのか、ビジネスではどんな展開が望めるのかを解説いただきました。

 当日は、案内役・聞き役として、西大井創業支援センターの朝比奈インキュベーションマネージャーと野田センター長が登壇し、座談会形式で進行。Web3入門編セミナーの様子をお届けします。

〈登壇者プロフィール〉
直江憲一 氏

 1989年熊本県八代市生まれ。2013年九州大学大学院修了。同年、株式会社ズカンドットコムを創業。同社CTOとして、ユーザー投稿型のWebサービスを開発する。2015年にビットコインと出合い、Web3サービスクリエーター集団「The Greeting」としても活動を開始。Web3グローバルハッカソンのETHGlobal Tokyo 2023とETHSanFrancisco 2022で高い評価を受けるなど、活動の幅を広げる。経済産業省:熊本版未踏的プロジェクト「IPPO」 プロジェクトマネージャー/IPA:2012年度未踏スーパークリエータ。

【案内役】
朝比奈信弘
西大井創業支援センター インキュベーションマネージャー/中小企業診断士

野田賀一
同センター長兼チーフコミュニティマネージャー

Web3の“信頼”の根源「ブロックチェーン」

直江:まず、Web3について解説する前に、Web1.0、Web2.0の歴史を振り返っていきましょう。

直江:Web1.0は、ノートに文字を書くといったオフラインの行為が、メールやテキストなどオンラインに置き換わった基礎的なWebを指しました。2004年頃からはWeb2.0が誕生し、Web上で読み書きができるようになります。それに合わせて徐々にSNSが発展。規模が大きくなった関連会社の中から、テクノロジー業界で影響の大きいGAFAMが登場しました。

直江:そして、2009年に生まれた概念がWeb3です。Web2.0の読み書きに“信頼”がプラスされた環境のことを指します。

野田:ここでの信頼とは、どういう意味でしょうか?

直江:Web上の信頼は、2種類あります。
 1つ目は、データの責任者が信頼できること。銀行アプリの口座残高や写真管理アプリ「Googleフォト」へ預けた画像データなど、企業が責任を持ってデータを管理することで得られる信頼性を指します。
 2つ目は、データの責任者の信頼性は関係なく、データが検証可能だから信頼できるということ。Web3で開拓されたのは、検証可能性による信頼です。

野田:なるほど。では、「検証可能性」とは何でしょうか。

直江:暗号資産である「ビットコイン」で発明されたブロックチェーン技術を理解すると、2つ目の信頼についてイメージできると思います。

直江:まず、ビットコインのような暗号資産の基本について解説します。ビットコインは、バーチャル世界の通貨で、最小単位は小数点以下8桁までの0.00000001BTCまであります。

 例えば、パンダさんからイヌさんへ、100万円相当のビットコインを送金する場合を考えます。ビットコインには取引を取りまとめてくれる存在がいて、この場合ラクダさんに手数料として約3,000円支払います。手数料は送金金額によらないので、100円相当のビットコインを送るのにも約3,000円、100万円相当の送金でも約3,000円がかかります。

 このビットコインにおけるBTCのような通貨単位は、ブロックチェーンごとに種類があります。国ごとに日本円やUSドルのような通貨があるのと同じだと考えてください。現在のブロックチェーンの数は、1万種類以上となっています。

 では、ビットコインは、なぜ信頼できるのでしょうか。ブロックチェーン技術について、馴染みのある契約書と割り印を例に解説します。

 世界中の会社が大きなプロジェクトに参加する様子をイメージしてください。会社同士で取引が発生すると、契約書のひな型(ブロック)を作りますよね。

直江:例えば、ラクダさんが契約書のひな形を作ることになった場合、作ったひな形はプロジェクトに参加する全企業がチェックします。そのチェックをパスすると、ひな形は正式な契約書としてプロジェクトのファイル(ブロックチェーン)に追加される。ラクダさんは、ひな形を作った代価として、手数料がもらえます。

 一度追加された契約書は、全社の合意を取っているので、容易に変更を加えることができません。契約書には割り印が押されており、全員が契約書のコピーを取って持っている。契約書が正しいかどうかを、誰でも検証できるようになっています。これが、先ほど説明した「検証可能性の高さによる信頼」の原理です。

野田:なるほど。「ブロックチェーンが1万種類ある」という話が出ましたが、1万種類の中には、契約書を作成するために集まった企業が10社のところもあれば、100社のところもあるのですね。

朝比奈:「ビットコイン」は、参加する企業が多いブロックチェーンなんですね。

直江:そうです。ブロックチェーン技術は「ビットコイン」のような通貨のほかに、チケットやゲームアイテムなどでも採用することが可能です。

信頼には、ランクがある

直江:次に、信頼のランクについて説明しましょう。先ほど、ビットコインの手数料は3,000円だと言いました。でも、「手数料が高いから、コストを下げたい」という会社も出てきます。その場合はプロジェクトの規模を小さくして、コストを下げます。そうすると、Web上の信頼に「松竹梅」のようなランクが生じます。

 一番高い信頼を得る「松」ランクは、世界中の誰もが契約書に割り印を押せるプロジェクト。例えば「ビットコイン」や「イーサリアム」です。

 次いで「竹」ランクは、契約書に割り印を押せるメンバーが限られつつも、一定の流動性があるコンソーシアム型ブロックチェーン。例えば、日本を代表する企業が契約書を作成する「ジャパンオープンチェーン」。これは、現在開発中のプロジェクトです。

 「梅」ランクに位置するのが、業界団体など固定的なメンバーでデータを管理するプライベートチェーンで、法人間で信頼が得るには十分な規模のもの。大阪・関西万博で使われる電子マネーアプリ「EXPO 2025 デジタルウォレット」には、HashPort子会社のHashPaletteという会社が運営するプライベートチェーン「パレットチェーン」が使用されます。パレットチェーンの利点はデータ転送の手数料がゼロで、ストレスフリーで使えること。

 このように、Web上の信頼にもランクがあることを覚えておいてください。

Web3の登場で変わる私たちの暮らし

直江:Web3が普及することで、社会がどう変わるのかを考えていきましょう。

 まず、Web3が登場したことで、Web2.0と入れ替わるわけではありません。Web2.0とWeb3が共存する社会へと変わっていくでしょう。

 例えば、SNSはWeb2.0を代表するサービスとして今後も生き残ります。SNSは変わらないデータとして信頼を得るよりは、人々に忘れられていく概念が重要になるので、Web3は使われないと思います。

 一方、金融機関や選挙の投票所、GoogleやAppleなど大企業のアカウントログインなど、人にとって「信頼」が必要なサービスで、Web3が利用されることになるでしょう。

朝比奈:つまり、対価を払ってでも信頼を得たいものに使われるということですね。

直江:そうです。また、これ以外にも、ブロックチェーンのシステムが充実しているので、運用コストを下げるためにイベントのチケット取得などでも活用されると思います。

Web3で新しく始まるビジネス

野田:Web3を使ったビジネスを始める場合、相性がいい業界はどこでしょうか。

直江:金融関係は経済合理性があるので相性がいいでしょうね。ブロックチェーンならではの新しい金融商品が生まれる可能性があります。

 Web3の誕生により、すでに新しいサービスも誕生しています。例えばWeb3のデータを分析して付加価値を付ける「CoinMarketCap」。ブロックチェーンは公のデータですが、自分で分析するのは手間がかかりますから、代わりに分析し評価してくれるサービスに価値が生まれています。

直江:アーティストのイベントなどで、Web3にデータを刻む道具「つるはし」を売るサービスもあります。

朝比奈:有名人が自分のサインを書いたデジタル画像を販売する時に、代替製品が生まれないようにブロックチェーンにして、唯一無二のものにするサービスということですか?

直江:その通りです。ほかには、Web3上でいわゆるドメインを作れる「Ethereum Name Service(ENS)」も面白いですよ。IPアドレスってユーザーにとっては覚えにくい、「192.0.2.1」のような番号なんです。Web1.0で「.com」などのドメインがそれをカバーしていたように、Web3上でも、暗号資産のやり取りで使われるウォレットアドレスなどの長い英数字の文字列を、ドメイン化してくれるサービスが生まれています。

 ただ、ENSは特定の企業が営利目的で作っているものではありません。売り上げは公共の基金とされ、どのように運用するかが透明性高く公表されています。開発を担当しているシンガポールベースの非営利法人ENS Labsも、この基金から有権者の合意を経て活動資金を得ています。このようにWeb3時代のインフラは検証可能性による公共性をもって開発されています。

朝比奈:なるほど。

ENSの基金をどう使うかの提案について、ENSの有権者に確認をとるサイト(画像は日本語に自動翻訳したもの)

直江:注目しているサービスは、イベントチケット関連でのWeb3の活用ですね。Web3の仕組みを利用することで、オンライン上でイベントに参加したかどうかを簡単に証明できるようになるはずです。そうすると、会場近くの飲食店やホテルが、参加者だけに向けた企画を勝手に打てるようになるでしょう。

 実は、デジタルアート作品が購入できるマーケットプレイス「αU market」が「新しい学校のリーダーズ」のライブ後に記念NFTを配った事例が、すでにあります。Web3では誰がチケットを所有しているか一般公開されていますから、これを活用してビジネスに取り組むことができます。

朝比奈:参加者を優遇する企画はこれまでにもありましたが、チケットを“また貸し”する不正があったんですよね。そういう世界観から、実際にイベントに参加した人だけがきちんと利用できるサービスに変わるということですね。

直江:そうです。悪人が不正で得をするのが防がれる世界に変わると思います。

朝比奈:寄付に関しても、Web3によって透明化できるのではないかと注目されていますよね。中間組織が寄付を募って分配するケースがありますが、集まった寄付金が、どこにどのように配られているかは追えないことが多いんです。Web3でお金の行き先が明確になることで、安心して寄付できるようになりますね。

Web3が登場することでどんなビジネスが誕生するか。直江さんが想像した例

Web3の登場で、「信用スコア」に変化が起きる

野田:直江さんの解説で、Web3が描く将来像がぼんやりと見えてきたような気がします。ところで、直江さん自身も、未来の価値観が変わるようなWeb3サービスを展開しているんですよね。

直江:挨拶を軸に人と人をなめらかにつなぐ「The Greeting(ザ・グリーティング)」というサービスを作っています。昔は仲が良かったけど、今は疎遠になった友人っているじゃないですか。そういう距離間の友人に、「あなたのことを思い出しているよ」と簡単に伝えられるようにしたいんです。年賀状やクリスマスカードが果たしてきたことを、インターネット時代にあわせてよりなめらかに再定義したい。

 今後、Web3が発展してくると、アカウント認証のWeb3化やそのアカウントの活動履歴がWeb3上でオープンになっていることで、注目を集めるためにデマ情報を発信したりサクラレビューで誇張広告したりする悪意のあるアカウントが排除され、安心して利用できるインターネットへと移行していきます。

 その時には、信用スコアとして、暗号資産の取引履歴など様々な活動履歴が活用されると思いますが、人同士の手数料を払った挨拶履歴がWeb3上にあれば、実在する人とのアカウントであることが証明されて、信用スコアとして価値が出てくると思うんです。

 例えば、「Gitcoin」というWeb3版のクラウドファンディングのプラットフォームがあります。ここでは直接的な寄付のほかに、基金にあるお金の分配をする上でよりユーザに人気のあるプロジェクトに資金が行き渡るように、クアドラティックファンディングという手法が採用されています。

 複数のアカウントを作って不正をされると困るので、ここではWeb3アカウントの活動履歴に加えてWeb2.0のX(旧Twitter)やGoogleアカウントと紐づけることで、寄付をしようとするアカウントの信用スコアを独自に計算し、公平な分配を実現しています。

朝比奈:アカウントを育てる概念なんですよね。

直江:私は人間らしい行動をしているだけで、信用スコアを高くできればいいなと思っているんです。こういうプラットフォームにThe Greetingが追加されれば、挨拶を交わしたことがポイントとしてカウントされます。

 挨拶には相手とWeb3の手数料が必要ですから、悪人だけで順繰りに挨拶履歴を作っていれば怪しいですし、一度不正が発覚するとこれまで育てたアカウントが使えなくなって経済的にもダメージを受けます。これによって善人にとって使いやすく、悪人は使いにくくなる世界が構築できるのでは、と考えています。

交流会の盛り上がりを可視化する「The Greeting」 を体験

 会場では、The Greetingのコンセプトを体験できる名刺交換会が実施されました。名刺交換しただけならチケットを1枚交換、共通点があって話が弾んだらチケットを2枚、「連携できそうだ」と合意を得たらチケットを3枚と、挨拶の質によってチケットの交換枚数が異なり、スマートフォン上に挨拶の履歴がリアルタイムに表示されるシステムです。

 交流会中に参加者同士がどれだけつながったかを指標に、交流会の盛り上がりを可視化でき、チケットが一方通行だったかどうかなどを振り返って検証可能性を体験しました。