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今年こそ自分のビジネスに挑戦したい会社員の方へ。複業・兼業を成功へ導く重要ポイント

起業イベントレポート

「今年こそ、自分のビジネスに挑戦したい」という熱い気持ちを秘めた皆さん。「具体的になにをどう始めればよいのか」「家庭を持ちながら挑戦できるのか」「今の自分のスキルでは不十分なのではないか」などといった不安を感じ、なかなか1歩踏み出せないという方も多いのではないでしょうか。

今回は2023年1月11日に開催された、TOKYO創業ステーション丸の内 Startup Hub Tokyo主催・品川区立西大井創業支援センター(以下:当施設)協力のイベント【複業・兼業を成功へ導く重要ポイント 〜リスクをコントロールする起業デザイン術〜】から、収入や生活を維持した状態で始める複業術をお伝えします。講師は、当施設インキュベーションマネージャーの朝比奈 信弘さんです。

講師プロフィール

朝比奈 信弘氏(品川区立 西大井創業支援センター PORT2401 インキュベーションマネージャー)
1982年生まれ、神奈川県出身。中小企業診断士。
千葉大学大学院(デザイン専攻)卒業後、印刷会社にて企業広告、販促物のデザイン業務に従事。
在職中の社会起業家への取材でソーシャルビジネスに関心を持ち、経営の道へ。
公的支援機関にて新規事業開発、人材育成、ICT導入促進、官民連携に従事後、独立。
公募要領を1問1答化するテクノロジー企業 Scalar株式会社 共同創業者(現取締役COO)
一般社団法人 東京都中小企業診断士協会 ソーシャルビジネス研究会 副代表
資金調達における事業計画の策定、マーケティング支援、非営利組織に対するガバナンス体制やIT活用等の支援実績多数。

朝比奈さんは2児の父親として家族との時間を大切にしながら、様々な活動や起業で複業に挑戦しています。

これからの時代、なぜ複業が必要なのか

終身雇用制度が一般的だった時代から、転職やパラレルキャリア、起業など様々な選択が身近になった現代。その背景には、人々の働き方や暮らし方の多様化や少子化・日本経済の停滞により、企業側が終身雇用を維持することが難しくなったことなどが考えられます。

自分で0からビジネスを始めることに対して、リスクを感じたり不安を抱えたりする人は少なくないでしょう。しかし昨今では、現状維持に努めようとすること、同じ環境・スキルで収入を得続けようとすることがリスクとなってきているのです。

講師の朝比奈さんも「未来のことは、正直まったくわかりません。しかし一番のリスクは、誰にも分からない未来を恐れ、1歩を踏み出さないこと、動かないことです」と語ります。本稿では、朝比奈さんのプレゼンテーションをダイジェストでお届けします。

初めての複業は何から始める?

これからの時代のリスクヘッジとしても始める価値のある複業ですが、「複業に挑戦したいが、自分に何ができるのか分からない。どう始めれば良いのか分からない」という方も多いのではないでしょうか。そんな方は、下記3つを抑えましょう。

①相対的強みを持つ

強み、スキルは相対です。例えば、デザイナーとして会社に勤めるBさんがいるとします。当然、Bさんよりもデザインスキルが高く、キャリアも積んでいるAさんはいます。では、Bさんには複業のチャンスがないのかというと、そういうわけではありません。デザインについてほとんど知識がなく、苦手意識を持ったCさんがいた場合、CさんにとってBさんのスキルは相対的に高いものとなるのです。

会社で日常的に営業資料を作成している方は、資料作成が苦手なCさんと出会った時に、ビジネスが生まれるかもしれません。絶対的なスキルを身につけなくても、多くのCさんと出会うことでビジネスチャンスが広がるのです。

②経験曲線効果を使う

複業を始める時に、最初から多くの収益を期待するとなかなかうまくいきません。プロダクトを制作して販売する場合、初めて作るときよりも慣れてきた時の方がコストを削減でき、売上も高まっていきます。これを「経験曲線効果」と呼びますが、この効果は複業全体にも言えることです。

上の図のように、ほとんどの場合は学習期(いわゆる投資の時期)を乗り切った後に、多くの収益を望めるようになります。そして学習期はコストも時間がかかるため、現在の生活水準や家庭を守りながら並行するのが非常に大変です。

一方で会社員の場合、入社した最初の1〜2年で得られる経験・知識が多いと言われています。そして、入社して数年経つと会社の業務をこなすことに余裕が出てきますが、得られる経験・知識は限定されてきます。

ですから、比較的慣れた環境・業務で収入を得ながら、複業の学習期を乗り越えることがおすすめです。複業から独立を志す場合は、自分のサービスが学習期を超えたと感じた時が独立のタイミングと言えるでしょう。

また、学習期を乗り越えるために初期から把握しておきたいのが、自身のビジネスの収益モデルです。

例えば、手作りアクセサリー作家などの場合、ニーズがある商品を作ることができれば、既存のプラットフォームなどを利用して初期から収益を見込むことができます。しかし、自身が制作できる量に限りがあるため、売上が大きく伸びることはあまり望めません。

一方、デザイナーやコンサルタントなど、信頼を積み重ねていくビジネスの場合、実績がない初期は収益を見込みにくいものの、だんだん口コミや紹介が増えたり、信頼と共に単価を上げたりすることができ、多くの収益を望めるようになります。

また、アプリやWebサービスなどを開発する場合は、サービスを完成させ世の中にリリースするまで、全く売り上げが発生しません。どうしても初期に赤字の期間が生まれますが、うまくいけばリリース後に高い売り上げが発生することもあります。

自分が挑戦するビジネスはどのタイミングで売り上げが伸びる事業なのかを初期のうちからしっかりと把握し、学習期を乗り越えましょう。

「学習期を乗り越え、ビジネスとして成熟し、これで安心…!」とも言えません。多くのビジネスにおいて、成熟期の後には衰退期が待っています。成熟期を迎える前に、どんどん次のチャレンジ(学習)を始め、自身のスキルの陳腐化を防ぐことが重要です。市場の変化が激しく、求められるスキルが変わり続けるこれからの時代、常に次のチャレンジをし続けることが、人生におけるリスクヘッジなのではないでしょうか。

経済産業省は昨年12月、令和4年度の補正予算として①リスキング(学び直し)を通じたキャリアアップ支援事業に753億円、②副業・兼業支援補助金に43億円の予算を発表しました。国としても、新しいスキルを取得する人を増やし、人材の流動性を高めることを重要視していると言えるでしょう。
(参考:https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2022/hosei/pdf/hosei2_yosan_point.pdf

③大義名分を掴む

私は独立前、会社員をしながら複業で様々なチャレンジをしてきました。その経験を踏まえると、「こっそりやる複業は続かない」と考えています。単発のお手伝いではなく、続けることを前提とした事業活動であれば、本業で関わる人たちにも応援をしてもらえるよう、きちんと話をすることが大切です。

複業を始める上で大切なのは、「培ったスキルは会社(所属先)に還元できる」という意思を表明し、なるべく本業を味方につけることです。特に「社会貢献」「地域貢献」という文脈を抑えると、多くの人は止めにくいものです。さらに、「ボランティア(無報酬)」「業務時間外」の2つが揃うと、会社としては辞めさせることはできません。

もし、「ボランティア」「業務時間外」の両方は辛いという場合は、企業によってどちらかを交渉できる可能性はあります。自分の場合はどんな交渉ができるのか、現在の状況や環境を整理しながら考えてみましょう。

具体的な交渉例は、上記のスライドを参照ください。

冒頭で、デザインスキルの異なる3人のAさん、Bさん、Cさんが登場しましたが、最初から自分で大義名分を掲げることが難しい場合は、大義名分があるCさんと出会うこともひとつの手です。最近では、社会貢献や地域貢献に関連した案件が豊富な複業マッチングサービスも増えています。まずはインターネットでそういったサービスや案件を検索してみましょう。

複業を成功させる3つのポイント

複業を始めるための手順をお話ししましたので、次は複業を成功させるためのポイントを整理してみます。

1.いざという時に頼れる師を持つ

学習期に師(前述したプロフェッショナルなAさん)と出会い師事できるかはとても重要です。例えば「動画編集のプロです」と名乗り複業を始めた際、想定より難しい案件で、自分1人では先方が求めるクオリティに達することができなかったとします。しかし、ここで「できませんでした」では信頼を失ってしまいます。

困ったときに意見を求められる人、相談できる人がいることはとても大切なことです。年齢が上がれば上がるほど、会社で重要な役職につけばつくほど、師事することに抵抗を覚える方は多いものです。しかし時には自分より遥かに年下の方でも、師事する心を持ちましょう。

「自分に強みはあるのか?」「もっとスキルを上げないと…」と考えることもとても大事なのですが、自分のスキルを求めてくれるCさんに出会うこと、そして師匠となるAさんに出会うことが、複業を成功に導く鍵となります。

2.事業の成果を定性的に決めておく

先述した「経験曲線効果を使う」にも繋がりますが、ビジネスモデルによっては学習期は売上が全然立ちません。会社との兼ね合いで、まずはボランティアで始める方も同様です。事業の成果=売上(円)だけだと、モチベーションが続かなくなってしまいます。

しかし、複業によって会社では出会えなかった多種多様な人と出会い、いろいろな気づきや経験を得ることが人生の豊かさや新たな仕事に繋がることもあります。事業の成果=売上(円)+人(縁)と考え、お金以外の成果を評価することでモチベーションを維持しましょう。

3.フルコミットの可能性を持つ

ボランティアの場合は期待や責任が低い分、求めれるスキルはそこまで高くありません。しかし、お金をいただくようになると、その分だけ求められるものが大きくなってきます。期待や責任がともなう場合、複業と言えどもプロ意識を持つことが大切です。

報酬と責任は1対1の関係なので、報酬が高くて責任は軽いという仕事はないと考えましょう。単価が上がり、期待・責任が重くなってくると、本業との両立が難しくなってきます。その時が独立するタイミングです。

複業でボランティアから収益化へ

イベントでは、西大井創業支援センター(PORT2401)月額会員の大谷典之さんと中継を繋ぎました。大谷さん自身、会社員として総合ディベロッパーを務めながら、まちづくりをキーワードに、複業で東京都不動産鑑定士協会の理事やまちの拠点づくりに取り組んでいます。

大谷さんは、会社で管理監督者として責任あるポジションを任される一方で、「自分はクリエイターであり続けたい。また、企業人には引退があるが、生涯現役でいたい」という想いで、5年前から複業を始めたそうです。

当時は会社で副業が禁止だったことや、自分が目指すビジネスを実現するには人脈が圧倒的に足りていないと感じたことから、まずはボランティアで小さく複業を始めました。時代の流れもあってか、3年前から務めている会社で副業が解禁になったため、個人事業主として開業。さらに別法人にも所属し、収益化を実現しています。

複業の実績をSNSに投稿したり、ニュースに取り上げられたりすることで、本業の同僚たちから「大谷は社会に貢献したいんだな、いろんな人たちと繋がっているんだな」と認識されるようになり、会社でも新たなポジションを得られることになったそうです。また、本業での経験や交流をきっかけに、複業として行政や大学、その他法人等からの講演依頼が舞い込むようになりました。このように、複業と本業がとても良い相乗効果をもたらしています。

まずは出会いの幅を広げよ

「複業を始めたいけど、スキルに不安がある」という方は、まずはコミュニティを広げたり、興味のあるイベントや場所に顔を出したりして出会いの数を増やし、師匠(Aさん)と顧客(Cさん)を見つけましょう。

講師の朝比奈さんは「学習期間を含めて、複業です」と語っていました。まだ収益化できていなくても、しっかりと仕事になっていなくても、会社を飛び出して新たな人々と繋がること、自分のスキルを必要とする人に出会うことは、立派な複業の始まりなのです。

朝比奈さん自身の学習期間は、突発性難聴になるほど忙しかったといいます。その経験から、もし本業と複業が重なる部分があれば、そこを優先的に進めていくのが最も効率が良いとアドバイスしてくれました。大谷さんの場合は「この時期は本業が繁忙期なので、あまり活動ができないかもしれません」と事前にきちんと説明しているそうです。

最初は無理のない範囲でこれまでよりも出会いや行動の幅を広げ、師匠(Aさん)や顧客(Cさん)に出会える機会を作りましょう。そして少しずつ活動を本格化し、本業で生活を維持しながら学習期間を乗り越えることで、着実にー歩ー歩進みながら、複業を形にしていくことが大切です。