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志を軸にできることから行動し、その結果をもとに試行錯誤を続けよう。学生起業家・Gabの山内社長に聞く、事業を形にするまで

起業イベントレポート

起業を検討中の学生の皆さん。まず何から始めればいいのか、起業アイディアをどう見つければいいのかお悩みの方も多いのではないでしょうか。

西大井創業支援センターでは、学生起業家で株式会社Gab(以下、Gab)代表取締役CEOの山内萌斗さんをお招きし、2023年3月16日に【学生起業のリアルを告白。知識・経験ゼロから急成長するエシカル事業はどのように生まれたのか】を開催しました。

創業3年の壁を越え、現在は有楽町に実店舗も構えるという山内さんは、どのように起業アイディアを見つけ、何から始めたのか。イベント内容をもとにダイジェストでお伝えします。

登壇者プロフィール

山内萌斗 株式会社Gab代表取締役CEO
2000年、静岡県浜松市生まれ。静岡大学情報学部行動情報学科2年次休学中(22歳)。
​東京大学起業家育成プログラムEGDE-NEXT2018年度、同プログラムシリコンバレー研修選抜メンバー、MAKERS UNIVERSITY 5期生•水野雄介ゼミ代表。大学一年次の2月にシリコンバレーを訪れ、人類の存続に必要不可欠な「must haveな事業」をつくることを決意。東京の課題を解決するビジコンで優勝したことをきっかけに同年12月「ポイ捨てをゼロにする。」というミッションを掲げ、株式会社Gabを創業。現在4期目。
Forbes Japan official columnist:https://forbesjapan.com/author/detail/2439

Gabは現在、「社会課題解決の敷居を極限まで下げる」をミッションに、下記3つの事業を展開しています。

中学〜高校2年生まで強い無力感を感じていた……山内さんが起業を志すまで

小学校の時は野球と空手を、中学校〜高校の途中までは野球をやっていたという山内さん。中高で野球部に所属していたもののあまり活躍できず、強い無力感を感じていました。しかし、高校2年生の時に野球部を辞め、再び空手を始めると、瞬く間に結果を残します。野球部の時に体力がついたのか、初出場した大会で準優勝、2回目に出場した大会で優勝という快挙を達成。顧問や部員の喜ぶ姿、そして学校の友人や他校の生徒からかけられる「すごいね!」という言葉に、大きな貢献と充実感を感じました。

山内さんは貢献によって今までにない幸福を感じ、多くの人に影響を与えられる人間になり「ありがとう人口」の最大化を実現したいというミッションを抱きます。

中学〜高校の途中までは己の無力を感じながら過ごしたこともあり、初めは学校の先生になってミッションを実現しようと考えました。しかし高校3年生の秋、進路を決定するために教育学部に進学した後のことを具体的にイメージしたところ、「教師になっても自分のクラス、または学校の生徒にしか貢献することができない」ことに気づきます。「ありがとう人口の最大化」を実現するためには、教育に関するサービスを構築した方が、より多くに貢献できるのではないか?山内さんはこのように考え、起業を意識するようになります。

静岡大学へ進学した山内さんは、入学してすぐ教授に「こういったサービスを構築したい」という想いを伝えました。するとすぐに教授がチームを編成してくれ、大学1年次に山内さんたちが企画した教育サービスをリリースすることができました。

浜松市の4つの中高で実証実験を実施したところ非常に満足度が高かったため、起業を本気で志すようになります。そこで、静岡大学が連携している東京大学の起業家育成プログラムへ参加。見事合格し、シリコンバレー研修の切符を手に入れたのです。

must haveな事業の必要性を感じた、シリコンバレーでの研修

シリコンバレーで山内さんが最も感銘を受けたのは、現地の起業家たちの姿勢です。「お金を稼ぎたいから」「地位や名誉を得たいから」という理由で起業している人はおらず、「自社の事業がスケールしないと人類の存続に関わるから」と、みんな真剣に起業していたのです。

主語が自分ではなく人類である、nice to haveではなくmust haveであるということに心を動かされた山内さんは、must haveな事業こそが「ありがとう人口の最大化」なのではないかと考えます。そして、教育以外のトピックでもmust haveな事業を実現できるのではないかと考え、帰国後さまざまなアイディアでビジネスコンテストに挑戦します。

そんな中、見事優勝に輝いたのが、株式会社タイミーが主催する学生向けのビジネスコンテストでした。このコンテストで山内さんは「渋谷のポイ捨てをゼロにする」というミッションを掲げ、広告掲載ができるゴミ箱を発表しました。人が集まるポイ捨てが多い場所に複数のゴミ箱を設置することで広告効果が高くなり、同時にポイ捨てもなくなるという事業です。

審査員からは「ポイ捨てはゴミ問題の氷山の一角であるが、追求していったらそもそものプロダクトの作り方や売り方など、根本に辿り着けるかもしれない。must haveという大きなことを成し遂げたいのであれば、登る山は大きい方が良い。ポイ捨てはゴミ問題という大きな山の、ひとつの登山口として良いんじゃないか」と評価されました。

ここで山内さんも、これまでの人生やシリコンバレーでの気づきなどを振り返り、まずはポイ捨てという切り口でmust haveな事業を始めてみることを決意します。

2019年9月に開催されたビジネスコンテストですが、10月には大学を休学し、上京。1,000万円の資金調達を実現し、ゴミ箱を作り始めます。

1年間がむしゃらに動いてピボッド、そして新規事業へ

ところが、上京してしばらくすると世間はコロナ禍に陥りました。人々の外出が制限されたり、他にもさまざまな要因が重なったりして、事業としてうまく収益化できないまま資金が目減りしていきます。

しかし、この1年間、一生懸命事業に取り組み、多くの自治体や飲食店、自販機を設置している企業などと話をすることで、山内さんはさまざまな気づきを得ました。

本当に人々はゴミ箱を求めているのか。飲食店や企業の経営者はどんな視点でビジネスをしているのか。最初の仮説に対してとにかく行動し、いろいろな人と話をすることで、誰にも得られない生の情報をたくさん得ることできました。

それらの情報から、ポイ捨て問題、ゴミ問題、社会課題という抽象度の高い言葉に対して、自分の中の解像度がどんどん上がっていったそうです。

会社の口座残高が100万円を切ったタイミングで、さまざまな知見を得ていた山内さんはついにピポッド(方向転換)を決意します。

そもそもゴミ箱のアイデアは実現可能か?違うやり方はないか?この1年間で得た情報や検証結果をもとに考え抜き、山内さんは上記2つの問いに辿り着きました。それぞれの問いに対して、新たな事業アイデアを考え、次の挑戦を始めます。

1つ目は、清走中というゴミ拾いイベントです。ポイ捨ての総量よりもゴミを拾う総量が勝れば街にゴミがなくなるのではないかという仮説のもと、「正しさよりも、楽しさ」を軸に思わずゴミを拾ってしまう仕組みを考え、イベント化しました。

この仮説は見事的中し、第1回から多くの参加者が集まり、スポンサーを獲得。現在も定期的に開催しており、事業として黒字化も果たしています。

ポイ捨てをなくすという考えを捨て、別の切り口でゴミをなくすことを考えたことで、軸をぶらさずに新たな事業を生み出すことに成功したのです。

2つ目は、メディアエシカルな暮らしです。ポイ捨てをゼロにするためには、そもそも上流の物づくりの方法から変えていく必要があるのではないかという仮説のもと、まずは消費者の意識やニーズを調査するためにインスタグラムのアカウントを立ち上げました。インスタグラムを選んだ理由は、DMやコメント、いいねなどの機能を使い、インタラクティブに運営できるからです。

社会問題をわかりやすく解説したり、解決に繋がる商品の紹介やレビューを毎日投稿したりしているうちに、約1年半でフォロワーが3.9万人に増えました。紹介した商品をそのまま購入できるよう、インスタグラム内でオンラインストアもスタート。現在では、インスタグラムの反応を活かし、ブログやメルマガなど複数のメディアを運営しています。

フォロワーが2万人ほどになったタイミングには、ポップアップストアを開きました。

初めてのポップアップは尼崎のショッピングモールで、3ブランドの商品を出展。たった1日で約2万円の売上を達成しました。

消費者にとって新しい存在であるエシカル商品をSNSで認知し、興味を持ったことはあっても、実際に自分の目で見たり触ったりしたことがない人は大半でしょう。オンラインだけでは購買を躊躇していた人が、オフラインで商品を手に取れば購買に踏み切ることができると気づいた山内さんは、これをきっかけに規模を拡大しながらポップアップ販売を重ねていきました。

その後、オフラインのニーズを確信した山内さんは、有楽町のマルイ内に実店舗を構えることを決意。ポップアップ販売でお客さまと会話をすることで得た気づきを活かし、みんなで「つくる」お店をコンセプトに運営しています。

具体的には、店舗に訪れたお客さまの声、商品への感想を各ブランドに伝えることで、ブランドがお客さまの声を反映したより良い商品を開発しています。こうしてできた新商品を「エシカルな暮らし」の各メディアで発信することで、より多くのお客さまに認知してもらう好循環が生まれています。

現在は、150のブランドを取り扱う国内最大級のエシカルショップとして、日々多くの人が訪れる人気店になり、Gabの主力事業となっています。

起業(イノベーション)を実現するために大切な3つのこと

志を軸に、とにかく仮説を立てて行動してきた山内さん。自身の経験から、起業(イノベーション)の敷居を下げて着実に実現するには、次の3つが重要だと語ります。

まずは、自分の中にある絶対にぶれない志(軸)を言語化することが重要です。山内さん自身、ビジネスコンテストで発表した事業アイディアを含めると、何度もピボッドを経験しています。その経験から、事業アイデアよりもそのアイデアを生み出した源泉となる志が重要だと気づきました。アイデアは志を実現する可能性のひとつであり、最初のアイデアがうまくいかなかったとしても、志を軸に他のアイデアを試してみればいいのです。

次に大切なのは、アイデアが実現可能かどうか、とにかく行動してみること。山内さんも、ゴミ箱のアイディアを実現するために、必要な資金を集めて実際にゴミ箱を作ったり、とにかく色々な人に営業をしたりと、1年間ずっと行動し続けました。結果的にこの事業はピボッドしましたが、その過程で得たさまざまな情報や気づきをもとに志の解像度を上げ、次のアイデアへ繋げています。

とはいえ、際限なく走り続けることは現実的ではなく、どこかで限界がきてしまいます。3つ目に大切なのは「まずは3年間」と期間を決めることです。以下は、イベントでの山内さんの言葉です。

「周りを見ていても、3年間耐えた人はすごく成長していると感じます。志を抱き、挑戦可能なことから始めて、行動しながらどんどん精度を上げる。自分の本心と事業が噛み合うところを3年間の中で絶対に見つけるという気持ちで頑張ってほしいですね。振り返ったらきっと、気づかないうちに敷居の高いイノベーションを実現していますよ」

まずは原体験から志を抱き、期間を決めて行動しよう

自身が幸福を感じた原体験や、教育への疑問から行動を始めた山内さん。行動し続けたことで新たな視点を得て、現在では高校2年生の時には考えていなかった「エシカル事業」を大きく形にしています。

「起業したいけど、何から始めていいか分からない」という方は、まずは自分の志、源泉を見つけて言語化し、3年間など期間を決めて、それを実現するためのアイデアをどんどん試してみましょう。日々の小さな挑戦が、気づけば大きなイノベーションへと繋がっていくはずです。