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口約束でも契約は成立する?契約書の役割と、秘密保持契約書の基本構造

起業イベントレポート

「ビジネスモデルが固まり、本格的に顧客を獲得していきたい」「起業したばかりで、契約書の知識に不安がある」という創業前後の皆さん。ビジネスを円滑に進める上で契約書が大事だと言われていますが、その役割や重要性、各項目の意味についてしっかりと理解できているという方は、実は少ないのではないでしょうか。

西大井創業支援センター(以下:当施設)は、当施設連携アドバイザーの大久保 和樹弁護士をゲストに迎え、【理解度チェッククイズ有り!契約書の役割と、秘密保持契約書の基本構造】を開催しました。

イベント内容を元に、契約書の重要性や各項目の役割をお伝えします。契約書についての知識を深め、自社も顧客も安心した上でビジネスを進めましょう。

登壇者プロフィール

大久保 和樹。1983年生まれ、東京都出身。NEXAGE法律事務所パートナー弁護士。西大井創業支援センター連携アドバイザー(専門家)。2009年に弁護士登録し、都内の大手法律事務所の知的財産部門にて勤務。米国への留学、現地法律事務所での勤務を経て、2016年にニューヨーク州弁護士資格取得。2019年に独立。現在は上場企業からスタートアップ、個人クリエイターまで幅広いクライアント層に対し法的アドバイスを提供しているほか、企業の社外監査役も務めている。
詳細は、https://www.nexage.gr.jp/members/okubo/

「契約書」の重要性を知る

契約書の役割を考える前に、まず「契約とは何か」を知っておきましょう。よく「契約書がないやり取りは、契約とは言わない」「契約書を結んでいないので、契約をしていない」と考える方がいますが、法律上、契約=約束を指します。つまり、当事者間に合意があれば契約は成立しているのです。

民法には「契約自由の原則」があり、その内容のひとつとして、契約(=合意)の方法は原則として自由であると定められています。口頭でも書面でも「お願いしたことを相手が黙ってやってくれた」という行動自体でも、「合意がとれている」状態であれば「契約が結ばれている」ことになります。

では、なぜ「契約書」が必要なのでしょうか。

「モノを売る」「モノを買う」といった一度だけの金銭の受け渡しで成立する単純なやり取りであれば、契約書を作成する必要はありません。しかし、長期に渡る契約や複雑なビジネス内容となると、口頭の約束では多くの人が内容を覚え切れません。覚え切れないだけでなく、お互いの認識に齟齬が生まれる可能性も高くなってしまいます。そこで、お互いの合意内容を明確に記録し、認識をすり合わせるために必要となるのが契約書です。

また、「約束を反故にされた」「お願いしたことをやってくれない」などのトラブルが起こった場合、契約書は裁判所に合意内容を説明する証拠として有効です。

契約書がない場合、または「規定内容があいまい」だと判断された場合、裁判所が双方の話を聞いて、契約の内容を判断します。このとき、当事者の意見が一致しない部分は、裁判所による「合理的意思解釈」により契約の内容が認定されてしまう可能性があります。そうなると解決までに多大な費用や時間がかかったり、こちらの認識とは異なる内容が契約の内容になってしまったりします。契約書を作ることに加えて、契約書が「第三者が見ても契約内容を明確に理解できる文言になっているか」に気をつけましょう。

秘密保持契約書を読んでみる

今回のイベントでは、数ある契約書の中から秘密保持契約書に焦点をあて、理解を深めました。秘密保持契約書とは、「情報をお渡しするので秘密にしてくださいね」という内容の契約書です。本取引の検討段階で、検討を進めるにあたり社内の情報を開示することがある場合に用いられることが多く、本取引に進んだ場合は、契約書の中の「秘密保持」という項目に同様の内容が記載されています。

秘密保持契約書を用いる場合、最も重要なポイントは「自分がどの立場なのか」です。自分が情報の出し手(提示する側)であれば、相手に秘密を保持してもらうためのルールをしっかりと定めなければいけません。一方、自分が情報の受け手(提示される側)であれば、その業務を進めるにあたり、その秘密保持のルールは現実的であるかを判断する必要があります。

秘密保持契約書は、概ね以下の項目で構成されています。

「損害賠償・差止め」は日本国内の契約では記載されていないことがほとんどです。しかし、アメリカなど海外との契約では記載されている場合も多いので、覚えておくと良いでしょう。

イベントでは実際に秘密保持契約書のサンプルを読み、理解度を確認するためのクイズを実施。今回は、下記のような背景で秘密保持契約書を結ぶシーンを想定しました。

本記事ではイベントの中で行った全6問のクイズの中から、前半の3問をピックアップしてお伝えします。記事をお読みの皆さんも、一緒に考えてみてください。

問題①
メーカーから示された仕様が思ったより難しかったため、あなたは技術顧問を依頼している大学教授に相談することにしました。大学教授に図面や仕様を見せても良いでしょうか。

今回の秘密保持契約書では、「誰に対して秘密情報を開示して良いか」という点に関して、第3条(秘密情報の取扱い)に記載されています。

第3条を詳しく見てみると、1項に「第三者に対し開示、公表、提供または漏洩してはならない」と書かれています。さらに、3項には「自己の役員、従業員、及び弁護士等の法律上秘密保持義務を負う外部の専門家に対し、秘密情報を開示することができるものとする」と書かれています。ここでポイントとなるのは、大学教授は社外の人間であり法律上秘密保持義務を負う外部の専門家ではないということです。そのため、今回のケースで大学教授に図面や仕様を見せてしまうことは、秘密保持違反となってしまいます。

問題②
メーカーから開示された商品の図面を見たところ、あなたは自社が取り扱う素材Bを使えばより商品を改良できる可能性を感じました。社内の素材Bの取扱い責任者に図面を見せても良いでしょうか。

こういったケースはよくあるのですが、目的外利用になるかどうかがポイントです。第3条の2項を見ると、「受領当事者は、秘密情報を本検討に必要な範囲を超えて使用してはならない。」と記載されています。本検討とは何でしょうか。これは実は、冒頭に定義されています。「甲が開発する新製品に乙の取り扱う素材Aを用いることについて検討する」と書かれていますね。素材Bを使うことを検討すると、本検討外に当たるため、見せてはいけないという答えになります。

ちなみに、素材Bの取扱い責任者は社内の人間なので、本検討(今回のケースでは素材Aを使うことの検討)に必要なのであれば、見せても問題ありません。

問題③
あなたは顧問弁護士にこの契約書のレビューを依頼したいと考えています。顧問弁護士に秘密保持契約書を見せても良いでしょうか?また、懇意にしているビジネスコンサルタントの場合はどうでしょうか?

実はこれは、非常に難しいケースです。契約書には「本検討に必要な限り弁護士に見せても問題ない」と記載されているため、契約書を締結するためのレビューが、本検討に必要かどうかという点がポイントです。

結論としては、見せても問題になることはないという答えにはなります。しかし、厳密に考えると、本検討自体(素材Aが新商品の開発に使用できるかどうか)に本当に必要なのか、非常に難しい問題です。「契約書はあるものの、契約内容が曖昧」と言われるのは、こういったケースがあるからです。

続いて、ビジネスコンサルタントへの開示の是非ですが、先ほどの大学教授と同様、ビジネスコンサルタントも外部の第三者にあたるため、見せることは秘密保持違反にあたります。

契約書の内容をきちんと理解し、ビジネスを円滑に進めよう

契約書が存在しなくても、双方の合意があれば成立してしまう契約。ビジネスは、あらゆる場面で契約に溢れていることが分かります。数ヶ月に渡るプロジェクトや毎月継続的に取引をする場合、トラブルを避けるためにしっかりと契約書を締結しましょう。また、契約書締結の際は、自社がお願いしたい内容が漏れなく組み込まれているかだけでなく、自社にとって守ることが無理のない内容であるかという点にも注目し、内容を丁寧に読み解きましょう。契約書によってトラブルを避け、ビジネスが円滑に進むよう願っております。