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「起業には正解がある」 創業フェーズの起業家に伝えたいこと

起業イベントレポート

2022年2月1日にリニューアルオープンしたばかりの西大井創業支援センター(以下:当施設)。新しくなった当施設では、「ここから始まる 起業の航路」をテーマに、「誰もが起業に挑戦できる施設」を目指します。

そこで、記念すべきリニューアルオープン初日となる2月1日に、第1期会員の皆さんを始めとする関係者の方々をお招きし、起業家に必要な資質や支援に関するオープンイベントを行いました。ゲストスピーカーは品川区の起業家、コグニティ株式会社代表取締役の河野理愛さんと慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(慶應藤沢イノベーションビレッジ)インキュベーションマネージャーの上田将史さんです。

今回は、オープンイベント全体の様子と、河野さん、上田さん、当施設インキュベーションマネージャーによるパネルディスカッションをお届けします。

はじめの挨拶、登壇者自己紹介

オープンイベントは、品川区地域振興部長・久保田善行氏による「はじめの挨拶」でスタート。

その後、センター長野田賀一氏による施設紹介や、当施設のインキュベーションマネージャー、朝比奈信弘氏米澤智子氏の自己紹介が続きます。

さらに、その後ゲストスピーカーの上田氏と河野氏に自己紹介が続き、第一部が終了となりました。本記事では、上田氏と河野氏のプロフィールを簡単にお伝えします。

上田将史(ウエダマサシ)/慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC) インキュベーションマネージャー

相談するハードルが低い支援者を目指し、学生から「会いに行けるIM」と言われることも。SFCでインキュベーションマネージャーの仕事を始め、約8年目。毎年のべ200名を超える学生から相談を受けており、答えを教えるのではなく「問い」を共有し、様々な選択肢を提供するような相談の受け方を心がけている。

また、たくさんの学生と接する中で、学生起業家のタイプは大きく2つに分けられることに気づく。

1つ目はキラキラリッチタイプ(外向型タイプ)。社交性があり、自分の気持ちを表現することやアイディアを出すことが得意。様々な機会を自分から見つけて積極的に活動することができる一方、飽きやすい傾向があり途中で諦めてしまうことも多い。

2つ目はメラメラオタクタイプ(内向型タイプ)。内側にクールな情熱を秘めていて、自分のペースで我が道を進んでいく。プロジェクトを推進するのに時間がかかるが、着実に成長していく。一方で真面目すぎる傾向があり、遊び心に欠ける面も。

それぞれの特性を分析し、相談者のタイプに合ったアドバイスを行っている。

河野理愛(カワノリエ)/コグニティ株式会社代表取締役

子どもの頃、本が好きだったことがきっかけでスポーツ科学に出合う。その後、インターネットに触れ、Webでスポーツ科学について調べてみるもののスポーツ科学の情報がなかったため、自分で分析したデータをネットに掲載し始める(1994〜97年)。

それを見た徳島ヴォルティスから試合の動きを分析して欲しいと依頼があり、毎試合分析するように(15〜18歳の時)なり、スポーツ科学情報のマッチングサイトをスタート。ちょうどNPO法ができたタイミングで、初の未成年代表として法人化を果たす(Sports Incubation System)。

1998〜2005年は同NPO法人の代表を務めながら、慶應義塾大学総合政策学部(SFC)に進学。その後、業界のギャップや限界を感じ、できるだけ大きな会社で学ぶことを決意する。NPOのメンバーに事業を譲渡し、新卒でソニー株式会社に入社した。

役員室で新規事業や知財関連など幅広い業務に携わった後、株式会社ディー・エヌ・エーに転職。2013年には「技術の力で、思考バイアスなき社会へ」をビジョンに、資本金120万円・たった1人でコグニティ株式会社を設立した。2014年より在宅勤務制を導入しており、現在は300人を超えるメンバーが全国で働いている。

パネルディスカッション「起業家に必要な資質や支援について

皆さんの自己紹介が終わり、いよいよイベントは第2部へ。「起業家に必要な資質や支援について」をテーマに、5つの議題について、パネラー3名(河野さん、上田さん、朝比奈さん)が議論を行いました(米澤さんはファシリテーターを担当)。

1)起業の「あるある事件」は?

最初の議題は、起業の「あるある事件」。数々の起業家を支援してきたインキュベーションマネージャーの立場と、実際に自身が経験してきた起業家の立場でお答えいただきました。

上田さん 学生の皆さん、社会人もそうなんですけど、お金のことをよく理解されていないケースが多い気がしますね。

簿記とか会計とかってビジネスにおいて共通言語であるはずなのに、そこにあんまり注力していなくて、決算期になって慌てて対応するという人も少なくありません。前もって知識を持ち、専門家に相談しながら進めた方が良いですね。

朝比奈さん お金の話は、本当にあるあるですね。

お金の面で言うと、いまだに粗利ベースで利益を考えてしまう創業フェーズの方は多い印象です。粗利ベースで考えると事業は続かないので、最低でも営業利益ベースで考える必要があるのですが……。その辺は、創業期に知識として学んでおくべきです。

あと、特にソーシャルビジネスは想いの強い方が多いので、熱量で仲間を集める傾向があるのですが、その時に「熱量ありすぎ問題」が起こります。これは、触ると火傷するので周りがあまり近づかなくなってしまう現象です。うまく相手に合わせた伝え方をして、相手の熱量を自分に近づけていくことが必要だと思います。

米澤さん あるある事件で言うと、「視野が狭くなってしまう」こともありがちなのかなと思うのですが、学生の皆さんを支援されている上田さん、いかがですか?

上田さん 視野が狭くなりがちというか、よくあるのが自分が考えたサービスに自信を持つあまり、他者に受け入れられなかった時に「せっかくサービスを作ったのにみんなが認めてくれない」と誰かのせいにしてしまい、上手くプロジェクトが推進しないケースがあります。

「こういう風に見えているよ」とか「こういう風にした方が良いよ」というフィードバックをするようにしていますが、信頼関係がないとフィードバックも伝わらないので、伝え方を工夫していますね。


P o i n t

▶︎ 創業フェーズは特に、しっかりとお金の勉強をし、利益の考え方・決算期に向けた動きを知っておこう。

▶︎ 会社や事業に対して熱い想いを持つことは大切だが、第三者に伝える際、視野が狭くならないように要注意。

2)起業や事業成長の「仲間集め」

米澤さん 河野さんは一人でスタートした会社が、いまは300名以上の方が一緒に働いています。経営の中枢メンバーや一緒に働く方々をどうやって集めてきたのでしょうか?

河野さん いまの会社は「私のやりたいことや実現したいことに共感してくれる人」といったような、パッションで人を集めたわけではないんです。最初に働いてもらうメンバーも、ハローワークで見つけました。

実は、1社目に創業した会社はパッションだけで仲間を集めていたのですが、疲弊するんですよね、自分も周りも。無理なことをどうにか感情でやっていくというか……。これではどうやっても会社が大きくならないんだろうなと思ったことが、私の挫折のポイントでもあります。

2社目となるいまの起業は、感情でどうにかするのではなくできるだけ仕組み化したいと考え、普通の仕事としてちゃんと働いてくれる人という観点で人を集めました。

役員構成も、実は社内役員ばかりです。やっぱり「何か成し遂げたい」という想いを持っている人ほど空回りもするし、合わなくなった時に問題が起こりやすくなるので、ベンチャーキャピタルからも「慎重に判断するべきだよ」と言われていて、長年やってくれそうな人は誰かを見ています。

現在、コアメンバーとして誰よりも会社のことを想ってくれている方が一人いるのですが、最初はワーカーから始めていただきました。歩合制で、1件10円とか20円です。そこから始めてくれた人が、いまや福岡から300人を統括して、さらに会社として何ができるかまで考えてくれるようになりました。

意外と最初からパッションで集めなくても、ちゃんと会社を回してくれて、共感してくれて、会社のために働く仲間になってくれる人はいます。逆に、パッションだけで始めないからこそ、ちゃんとお金を渡して、ちゃんと時間を管理することが永続的にやっていくコツだと思うんですよね。

私も最初の頃は自分の想いばかりで、何年も売れる商品が作れませんでした。その間に心が折れて辞めていく人たちも少なくありません。やっぱり売り上げこそがみんなのモチベーションになり、ちゃんと仕事を続けられる糧なんですよね。なので、“普通のことをちゃんとできる”をベースに仲間集めをしています。

米澤さん ITサービスは、技術が会社のコアな経営資源になると思うのですが、そういった会社のキーとなる資源を開発してくれる方というのは、どのように見つけて仲間にしていったのでしょうか。

河野さん 数年前までは全部外注でした。上流やプロトタイプは全部自分で作っていたのでそんなに困らなかったですし、いまでもトラブルが起こったら自分でサーバーを見に行って直しています。ビジネスとしてコアがどこにあるかというと、私の場合は技術のところなので、自分でも多少見れるようにしてます。

ですが、やっぱり他の人にお願いする必要も出てきます。いまはクラウドソーシングなどで出会いやすくなっているので、初めから固定でエンジニアを雇うことが必須ではありません。ここだけ頼みたいとか、普通できちゃいますから。

実際、いまフルタイムのエンジニアは、最初はクラウドワークスで出会って、5万円の案件から依頼して、次に20万円の案件を依頼して……というのを何度か繰り返し、「そろそろメンバーになる?」と声をかけて、本格的に仲間になっていただきました。

いままでの起業みたいに、「人を集めて何かしよう!」という形に拘らなくても、仕事になっていく時代だと思います。

米澤さん ありがとうございます。上田さんは、「上手く仲間を集めているなぁ」と感じる学生はいますか?

上田さ そうですね、ビジョンの発信の仕方とか伝え方とかを工夫している学生は、チームメンバーを集めやすいと思っていて。

先ほど、情熱だけで人を集めて火傷をするという話がありましたが、個人が持っている想いと組織が持っているビジョンの接合点を上手く見出せるようなアプローチでチーム組成をできているところは、プロジェクトを前進させる力があるのかなと感じています。

SFCは起業環境が充実していて、起業に関する授業やビジネスコンテストを開催している学生団体や、メンター三田会という起業を応援するようなコミュニティがあります。そういったところで「こういうビジネスをやりたい」と発信すると、仲間が勝手に集まってくるんですよね。

とはいえ、普通の学生がエンジニアなど技術を持った人を見つけるのはなかなか難しいという問題もあるので、適した人がいたら紹介するようにしています。ただ、そこら辺をどうやるのがベストかというのは、私もまだちょっとわかっていないですね……。

なので、困っていることを知り合いに伝え続けることも、仲間集めにおいて重要なのではないかと思っています。

朝比奈さん 河野さんに関して、300人も仲間を集められているのがすごいんですよね。純粋にこの人数を集めるというのは、一筋縄ではいかないですから。

スタートアップの共通項として、創業フェーズから変えて良いところと変えてはいけないことが2つあると言われていて、1つは会社の軸(ビジョン)、もう1つは風土文化です。創業期の起業家が大事にしていることを崩すと、会社が根幹から崩れてしまうので。

アメリカでは、例えば「家族との時間」を大事にする起業家の会社には、それを理解し、そんな起業家を支える従業員たちが集まり、自然と同じ風土文化を持った人たちが集まるようになると言われています。

コグ二ティさんも、働き方が柔軟ですよね。20分からでも良いですよとなったら、隙間時間で働き始められます。隙間時間で始める人っていうのは、他に時間を多く取られる何かがあるということです。そこに居心地の良さがあると思うし、だからこそ生産性が高いということもあるでしょう。仕事以外の家族の話もできるという心理的安全性もあると思います。

狙ったか狙ってないかはちょっとわからないんですけど、結果としてそういう風土文化が醸成されているというのがコグ二ティさんの働き方であり、人集めに繋がっているんじゃないでしょうか。

米澤さん この西大井創業支援センターでもこれからたくさんの交流イベントやイベントを行っていきますので、ぜひ皆さんも仲間集めや、壁打ちの場として活用してください。


P o i n t

▶︎ パッションだけで採用活動を行うと自分も相手も疲弊する可能性が高い。事業の拡大、継続性のある会社経営を考えると、労働時間に応じてきちんと賃金を支払える仕組み化を行うことが大事。

▶︎ 専門スキルを必要とするメンバー探しに、クラウドソーシング活用するのも一つの手段。最初は小さなプロジェクトベースで関わってもらい、何度か依頼を重ねて信頼関係を築いてから、必要なタイミングフルタイムで関わってもらうこともできる。

▶︎ 困っていることを日ごろから周りに伝えることで、人を紹介してもらえることもある。

▶︎ 会社のビジョンと同じくらい、創業期からの風土文化も大切。風土文化がしっかり醸成されていると、仲間集めに役立つ。

3)学生起業→会社員→起業という変遷を経て感じること

米澤さん 続いて、河野さんにうかがいます。起業には、メラメラする想いと「冷静に仕組みを作っていく」「資金調達をしていく」「組織を大きくしていく」といった思考が必要だと思うのですが、その両面でご自身が考えられていることを教えていただけますか?

河野さん やはり起業するとなると受け身ではいられないので、間違いなくメラメラなんですね。だから1回目の起業もいまも情熱を持ってやっているんですけれども、いずれもそれまでの経験が活きていることがあるなと。

学生起業していた時も、会計や法律を自分で勉強してわかるようになって、その後に大きな会社に入ったので、中途採用に近いような状態で仕事をさせてもらえました。さらに、スケールの大きな会社ではどうやっているのかを学ぶことができたので、何かを持って次の環境に移るというのは非常に良かったなと思います。

逆に、もう一度、起業して情熱に入らなければいけないフェーズになった時に、会社員を経験しておいて良かったということもあるんですよね。燃えているだけでは人が疲弊していくので、それをどう整えるのか、何が常識なのかというのは、やはり起業経験だけではわかりません。

メラメラだけだとどんどん視野が狭くなってしまっていくので、多くの会社に受け入れられる、多くの人に受け入れられる仕組みやルールって何なの?という視点は、先の経験があったからこそ持てているんだと思います。

いろいろな取り組みをしますが、その時その時に得たことを次で活かすことができれば、その先がかなり広がるなと感じています。

米澤さん ありがとうございます。会社員経験の話が出ましたが、お金の回し方でソニー時代に学んだこと、役立っていることは何ですか?

河野さん そうですね、本当に今の会社の基礎はほとんどソニーのおかげだったと思っています。知財に関しても法律に関しても労務に関しても、全部そこをベースにさせてもらっているので。

ただ、やっぱり全然違うと言えば違うんですよね。人を集めて300人を回すためにはソニーの時の知恵がすごく必要だし、相手が大企業だった場合ソニーで学んだルールを活かすことが相手の安心感につながります。ただ、起業ってやっぱりそれとは違うところがあって、お金の回し方は正直、学生起業の時に近いと思います。

回っている世界0から1にする世界ではお金の使い方も考え方も全く違うんです。お金の回し方に関して、常識を知るには会社員の方が良いけれど、本当に起業に必要な考え方はちょっと違うものだと感じています。

米澤さん なるほど。続いて上田さんにお聞きします。学生のうちに起業をするメリットはどこにあると思いますか?

上田さん これまでの学生生活で、長い間「教えられた問題に対して答えを出す」ことをしてきた中で、「自分で問題定義をして答えまで考えていく」のはものすごく力になり、成長すると思います。

あとは、先ほどもお話した通り、自分が見ている世界と他人が見ている世界は違うということを知り、そこからどう行動していけば良いのかということを考えるきっかけになるので、そういう経験をした方が良いでしょう。

ただ、それは起業じゃなくてもできるかもしれないので、この場には相応しくないかもしれませんが、本当にやりたいことでなければ別に起業をしなくても良いのかなという気もしています。

米澤さん 河野さんは実際に学生時代に起業を経験がありますが、学生起業のメリットは何だと考えていますか?

河野さん 学生時代はとにかくエネルギーが有り余っているので、思いっきり突っ走れるんですよね。起業では、やり抜く・やり尽くすことが必要なので、エネルギーを存分に使える若いうちにやっておくのは、ひとつのメリットだと思っています。

あと、私は会計や法律など、会社を経営する上で自分の知識が足りないと感じたら、その分野の授業を受講するようにしていました。いまは学部を超えて授業を受けられる時代ですし、SFCは特にその環境が整っていると思います。

必要だなと思ったことを全部手に入れられる環境があって、それをこなせるエネルギーがあるうちに、何か経験しておく、やりたいことをやるのは、人生においてすごく意味があることだと思います。ただ、会社は一人でやるものではなく、法人格として責任があるものなので、やはり他人に迷惑をかけない、最後までちゃんとケツを拭くというのは大事ですね。

米澤さん 社会人になってから起業する場合は、エネルギーをどう捻り出して持続させていくと良いのでしょう?

河野さん これは1つしかないと思っていて、最初に起業した時の想いを、絶対に忘れないようにしておくことです。どこかに書いておいた方が良い。

なぜこうしようと思ったのか?」を突き詰めた方が良いし、突き詰められない内容だったら起業しない方が良いと思います。私はこれを目指していくんだ、なぜならば〜を言えるようにしておくことが絶対に大事です。

とはいえ、心が折れることは死ぬほどあるんですよね。そういった時に私がやっている手法は、目標を小さく設定して、一つ一つ達成していくことです。先のことばかりを考えすぎず、まずは目の前の小さな目標に向かっていくと良いのではないでしょうか。


P o i n t

▶︎ 会社や世の中の常識・ルールを知る上で会社員経験は役立つ。しかし、起業においては情熱が必要な部分もある。

▶︎ 何をするにしても、それまでの経験を持って次の環境に移ることができると可能性が広がる。

▶︎ 学生起業のメリットは、自分で問題定義をして答えを考える、他人の考え方を知る経験をすることで、成長できること。必要だと感じたことを全て手に入れられる環境があり、それをこなせるエネルギーが存分にあること。

▶︎ 社会人になってからエネルギーを持続させるには、起業時のパッションを絶対に忘れないようにしておくことが大事。それでも心が折れそうな時は、先を見過ぎず、目の前の小さな目標を設定して一つずつ達成していくと良い。

4)起業の支援に必要なことは?

米澤さん 河野さんは現在、品川区のビジネス拠点「SHIP」に入居されています。こんな起業支援があったら良いな、こんなことがあって助かったなということがあれば教えてください。

河野さん 売り上げがなかなか立たない時に、市場価格よりもかなり安い価格でオフィスを維持できるのは本当に助かりました。人を雇うかどうかのタイミングでも、従業員に活用できる子育ての助成金を使わせていただき、その柔軟性はすごいな、と。

ただ、こういうのって知らなければ全然知らないんですよね。私も最初は全然知らなくて、初めて品川区との繋がりを持った時に、他にもいろんな支援があることを教えてもらい、使わせてもらいました。

支援自体はすでにあちこちあり、西大井創業支援センターのように相談できる場所も増えてきているので、まずは「今のフェーズに使えるものありますか?」と訪ねてみるのが良いのではないでしょうか。

米澤さん 上田さんはインキュベーション・マネージャーとして、普段からどういったところを重点的に支援されているのでしょうか?

上田さん 起業支援というと、支援者は「起業」という事象だけに注目してしまいがちなのですが、その人が過去・現在・未来どういう風に生きていきたいかを一緒に一所懸命考えて、サポートできることはしてあげたいと思っています。

あと、自分の専門外の分野に関しては、専門家を紹介したり、場所を紹介したりして、一緒にその人の人生をデザインしていくことを心がけています。

起業って、つらくてしんどいことが多いじゃないですか。ちょっと楽しくなるような、日々の楽しさを一緒に共有できるような働きかけもしていきたいですね。

米澤さん 支援者側として、朝比奈さんにもコメントをお願いできますか?

朝比奈さん 失敗の定義っていろいろあると思うんですが、起業においての失敗って、皆さんが諦めるかどうかなんですよね。10年続く事業というのは10年以上続くIPOに出すと10年間言い続けた企業は、その9割がIPOしていると言われています。逆に言うと、それくらい事業のモチベーションを10年間も保つことは難しいんです。

つまり何が言いたいかというと、続けようと思い続けることが難しいんですよね。起業家支援ってお金や人を集めるイメージがありますが、それ以上に皆さんの「続けよう」という心を支えるのが本当の役割なんじゃないかと思うんです。

皆さんが「この事業で社会を変えよう」と10年間想い続けることができたら、本当にそれができるんです。この施設は入居期間が最長4年間ですので、少なくともその期間は一緒に伴走させていただきます。


P o i n t

▶︎知らないだけで、今の自分が利用できる支援はたくさんある。まずは気軽に施設を訪ねてみよう。

▶︎起業の失敗は、自分が諦めるかどうか。10年続ければ叶うと信じて、続けようと想い続けることを続けよう。

5)起業とは、一言で言うと?

上田さん そうですね、さっきつらいことが多いと言いましたが、起業は幸せな瞬間なんじゃないか、その人が自分らしく輝くためのひとつの手段じゃないかということをいま考えました。ぜひ、つらいけど楽しいなというMっ気を出して挑戦して欲しいですね。

河野さん Mっ気ですね(笑)。確かにそうなっちゃうと思います。

本当につらいことは何度でも起こりますし、フェーズによって、しんどいことが毎回レベルアップします。周りの起業家を見ていても、最初の段階で苦労していない人ほど、IPO前に心が腐りそうになっている方も珍しくありません。

自分なりのストレス発散法を持っておくとか、絶対に心のケアをできるようしておいた方が良いと思うんですけれども、起業する人に私からお伝えしたいのは「王道をやれ」ですね。

起業には、正解があります。経営って正解があるんですよ。プライベートでは正解がないことがいっぱいありますが、組織づくりや経営には成功者がちゃんといて、それに基づいた法律・ルールができていて、売り上げを上げるためのマーケティング手法なんかもほとんど解明されています。

ですから、上手くいっているものを流用すれば良いんです。でも、自我が邪魔をしたり、諦めが出たり、思いつきになってしまったり、そういう心の揺れが出て失敗することがあるんです。

王道として認められていることをちゃんとやれば、ちゃんと進みます。もちろん、大変な時もありますが、ちゃんとやれば元に戻るし、見てくれている人もいます。しんどいだけじゃなくて、ちゃんとやればちゃんと成果が出るということだけは、皆さんに覚えておいてもらいたいですね。

朝比奈さん いま王道と言う言葉あり、おっしゃる通りだなと思いました。型破りと言う言葉も、型を知ったから破れるわけですから。

起業をするといろんな法律に囲まれた上で、「どう戦うんだ?」みたいな場面があります。法律やルールを知らずに戦うということは、敵を知らずに戦うのと同じです。

となると、インプットが必要となります。インプットの方法として本を読む、自分で勉強するもあるのですが、仲間から学ぶという手段もあります。

僕は中小企業診断士の資格を取るのに時間がかかったのですが、勉強仲間からたくさんのことを学びました。いまではその仲間と仕事をすることになり、つながり続けています。

創業期の皆さんはインプットが大切な時期ですので、ぜひこういった施設で起業仲間と出会い、お互い切磋琢磨したり教え合ったりしていただけると良いなと思います。


P o i n t

▶︎ 起業はつらいことも多いが、自分らしく輝くための一つの手段である。

▶︎ 年々しんどいことがレベルアップしていく起業。自分に合った心のケア方法を持っておこう。

▶︎ 起業するなら王道を。正しい知識をインプットし、ちゃんとやればちゃんと成果が出る。

▶︎ 知識のインプットには、本を読むだけでは追いつかないことも。仲間から学ぶという手段も有効。

まとめ)過酷な挑戦だからこそ、頼れる人・場所のある起業を

起業とは、自分らしく輝いて生きるための一つの手段であり、その実現には王道がある――。その道のりは決して平坦ではなく、創業時の熱い想いを持ち続けること、正解を学び続けること、自分と戦い続けることが必要不可欠です。

精神的にも知識的にも、常に成長を求められる過酷な挑戦だからこそ、一人では抱えきれないことがあるかもしれません。西大井創業支援センターでは、そんな起業家の皆さんを「仕事環境、起業家コミュニティ、気軽に相談できる専門家、行政の支援制度の紹介」など、ハードとソフトの両面から継続的に伴走支援します。

「起業したい」という熱い想いがある方は、ぜひ施設にお越しください。さまざまなバックボーンを持つ起業仲間と頼れるインキュベーションマネージャー、個性豊かな運営メンバーが、挑戦するあなたをお待ちしています。


本イベント、パネルディスカッションの様子はYoutubeで動画配信も行っております。
ぜひご覧ください。