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イベントレポート:Web3初級編 「EXPO2025デジタルウォレット」によるNFT・SBT体験とWeb3から見た大阪・関西万博の楽しみ方

起業イベントレポート

 「Web3」という言葉をなんとなく聞いたことがあっても、具体的に説明するのは難しいと感じる方は多いのではないでしょうか。

2025年3月27日、品川区立西大井創業支援センター(PORT2401)では、Web3を活用したサービスを展開する直江憲一さんを招き、「Web3で世界はどう変わる? 知っておきたい 初級編」を開催しました。

案内役・聞き役として、PORT2401のインキュベーションマネージャー・朝比奈信と同センター長・野田賀一が登壇し、座談会方式で進行。大阪・関西万博をWeb3視点でどう楽しむのか? 大変盛り上がった当日の様子をお届けします。

〈登壇者プロフィール〉
直江憲一さん
1989年熊本県八代市生まれ。2013年九州大学大学院修了。同年、株式会社ズカンドットコムを創業。同社CTOとして、ユーザー投稿型のWebサービスを開発する。2015年にビットコインと出合い、Web3サービスクリエーター集団「The Greeting」としても活動を開始。Web3グローバルハッカソンのETHGlobal Tokyo 2023とETHSanFrancisco 2022で高い評価を受けるなど、活動の幅を広げる。経済産業省:熊本版未踏的プロジェクト「IPPO」 プロジェクトマネージャー/IPA:2012年度未踏スーパークリエータ。

〈案内役〉
朝比奈信弘
西大井創業支援センター インキュベーションマネージャー/中小企業診断士

野田賀一
同センター長兼チーフコミュニティマネージャー

Web3のテーマは“信頼”

直江:大阪・関西万博が近づいてきました。皆さん、万博は楽しみですか? 私は、開幕日の「1万人の第九 EXPO2025」に合唱団として参加するんですよ(笑)。

直江憲一さん

会場:おおおー!

直江:YouTubeで配信されるので、ぜひ私を見つけてください。さて、今回お伝えしたいのは、実は、大阪・関西万博ではWeb3が活用されているよ、という話です。

朝比奈:まず、Web3とはどういったものでしょうか? 直江さんに解説いただきたいです。

PORT2401 朝比奈信弘インキュベーションマネージャー

直江:情報の流れが一方的だった、読むだけのものを「Web1.0」とすると、SNSやゲームなど双方のコミュニケーションが取れるようになり、読み書きができるようになったのが「Web2.0」。ここまでは、理解できる方も多いと思います。「Web3」は、Web2.0の価値観に、“信頼”がプラスされたものとしています。

PORT2401 野田賀一センター長

野田:信頼とは、どういったものを指しているのでしょうか?

直江:2種類あります。

1つは、下図にてオレンジ色で表現されている、データの責任者を信頼できるというもの。個人のSNSより政府のSNSのほうが信頼度が高い情報と感じるように、企業・団体の権威が信頼性につながります。

もう1つが、紫色で示されているパブリックブロックチェーンなどの検証可能性による信頼です。

朝比奈:パブリックブロックチェーン……。急にレベルが上がりましたね! PORT2401によるWeb3のイベントは、今回で2回目です。前回のイベントで詳しいお話がありましたので、ぜひレポートをご確認いただければと思います。

イベントレポート:Web3入門編 「信頼」できるインターネットを実現する革新的技術

直江:オレンジ色は「そこそこ信頼できる」、紫色は「最強に信頼できる」データで、信頼性にもグラデーションがあることを覚えていただければ、今のところは大丈夫です。

朝比奈:例えるなら、前者は「鉄壁の牙城で管理されているデータ」で、後者は「いくら倒しても復活するアメーバのようなデータ」という捉え方であっていますか?

直江:良い例えですね。ちなみに「ブロックチェーンって大きなデータセンターで管理しているのでは?」という声も聞こえてくるのですが、ミニマムに構成することも可能です。私は、実家のテレビ台の下にあるMac miniでブロックを生成しています。

直江さんがイーサリアムのブロックを生成しているパソコン

野田:お子さんたちが元気に駆け回っている近くで、「最強に信頼できるデータ」が作られているんですか?

直江:そうなんです(笑)。1台のPCが世界中でつながって、同時並行的にデータを監視しあっています。ブロックチェーンは全員が契約書に割り印をするようにコピーを持ち合うので、誰かが不正を試みても、他のコンピューターとデータが一致せず完全に拒否されます。そのため、不正なデータが入り込むことは事実上不可能なんです。

朝比奈:よく「石板に刻む」なんて言い方もされますが、履歴が残るので、どこまででも追いかけられるのがWeb3の利点。名前の通り、チェーンのようにつながることで信頼を強化しているものと考えてもらうと良いかもしれませんね。

「ファーストペンギンの心意気が感じられる」 万博で注目のSBT

野田:ブロックチェーンと万博は、どのように関係してくるのでしょうか?

直江:注目いただきたいのは「EXPO2025デジタルウォレット」です。万博会場は、全面的にキャッシュレス決済のみに対応している(※1)のですが、このアプリは独自の決済システムが使えるだけでなく、Web3体験ができます。

※1 原則現金は使えず、クレジットカード、電子マネー、コード決済など約70種類に対応予定。決済アプリ「EXPO2025デジタルウォレット」のほか、マルチ電子マネーチャージ機が60台以上設置されるとのこと

こちらの図をご覧ください。

朝比奈:ごめんなさい。説明がないと、よくわかりません!(笑)

直江:「EXPO2025デジタルウォレット」をダウンロードすると、決済機能の「ミャクぺ!」や、ポイントを貯められる「ミャクポ!」を使えます。ここまでは、一般的な決済アプリと同じように使えますね。

鍵となるのは「ミャクミャクリワードプログラム」。SBTを活用したスタンプラリーなどに参加することで経験値(exp)を貯め、NFT(※2)との交換や特別ツアーに参加できるようになります。

※2 「Non-Fungible Token」の略。唯一無二のデジタル資産で、IDが振られデジタルコピーができないデータのことを指す

野田:NFTはなんとなく理解できるのですが、SBTとは何でしょうか?

直江:SBTとは、SoulBound Token(ソウルバウンドトークン)の略で「あなただけのNFT」と表現できます。自分だけが保有でき、他人に譲渡できないNFTです。

例えば、「ひょうごフィールドパビリオン」では、兵庫県内の対象施設に行ったり指定のプログラムに参加したりすると、アプリ上に表示されるコインがもらえるのですが、それがSBTです。ただし、この発行方法がQRコードからなのが問題なんですよね。

朝比奈:QRコードだと、なぜダメなのでしょうか?

直江:現地に行かなくても、QRコードのリンク先がわかってしまえば発行できてしまうからです。SBTは、その場に行ったり体験したりした人にだけ与えられるから、価値があるもの。現に私は現地にいって体験していないけれど、いくつかSBTを取得できてしまいました。

Web3で発行されてしまえば情報が変更されたりすることはなくて「最強に信頼できる」情報なのに、発行方法が人の管理に頼った「そこそこ信頼できる」Web2.0的信頼度なのが、残念なんですよね。ただし、公式にWeb3やSBTを扱っているだけでファーストペンギンの心意気は感じられます。まずSBTに触れるという意味では、良い体験になると思います。

朝比奈:なるほど。今回の万博では、SBTの普及を目的としているので、そこまでの厳格性は求めていないのかもしれませんね。よりWeb3的な発行を考えるとしたら、どのような方法があるのでしょうか?

直江:ベストプラクティスはまだなくて、ここにWeb3の伸び代があると思います。ひとつのアイデアとしては、新型コロナウイルス接触通知アプリ「COCOA」のような仕組みが考えられます。プライバシーを守りながら、現地のスマートフォン同士をセンシングしあって、その場にいないと取得できない情報をブロックチェーンに刻んでいけば、後からデータを検証可能になるので、信頼度は高まると思います。

直江:今後は、SBTの活用方法にも注目していきたいです。例えば、特定のイベントやライブに参加した人だけに発行されていることでが「最強に信頼できる」できるSBTなら「本当にあの場所にいた」ことの証明が得られます。特定のSBTを持っている人にだけ情報を伝えるといった、マーケティングへの活用といった展開もあるでしょう。

最強に信頼できるSBTが増えればバーチャル空間のコミュニケーションが取りやすくなる

朝比奈:子どもの頃、ラジオ体操に参加するとシールをもらえて、 20枚集めるとお菓子と交換できるなんて体験がありました。でも、最終日だけ参加してお菓子だけもらえる子もいたじゃないですか(笑)。SBTは「信頼度が高いシール」と考えられるかもしれませんね。

野田:わかりやすい! 今後の展開を考えると、万博のSBTを集めたくなりますね。

直江:そうなんですよ。本人が現地にいることへの信頼性という意味では、AIによるなりすましも脅威になります。技術だけでなく概念もWeb3なSBTを持つ人は、AIではなく人間であることの証明が容易になるでしょう。現実世界での発行の仕組みが確立されれば、最強に信頼できる体験記録型SBTとして発展していくと考えています。

朝比奈:今、バーチャル空間市場も盛り上がっているので、アカウントの信頼性を高め、自分自身を証明するために、SBTやNFTが活用されていきそうですね。楽しみです。

直江:最後に、Web3的に大阪・関西万博で注目してもらいたいのが、落合陽一さんのパビリオン「null²(ヌルヌル)」です。本日のイベントを受けて落合さんの言葉を見ると、以前よりも、彼が実現したいことが見えてくるはず。ぜひWeb3的な視点で、大阪・関西万博を楽しんでみてください。

朝比奈:本日はありがとうございました。万博がすごくチャレンジングな一歩を踏み出しているのだなと実感するとともに、これからが楽しみになるお話でしたね。

野田:Web3のイベントは今後も定期的にやりたいですね(笑)。本当に楽しかったです。ありがとうございました!


Web3の視点から大阪・関西万博をのぞいてみると、新たな気づきが得られることでしょう。今回のイベントの内容を受けて、万博に行ってみたくなった人もいるのでは? これから行く人は、NFTやSBTを用いた体験ができる「EXPO2025デジタルウォレット」とともに、万博をより楽しんでみてはいかがでしょうか。